ある日のこと、おままごと を始めたばかりのS君が大泣きして先生のところにやって来た。聞けば、お友達と、家族ごっこの役割を決めたところ、まだ字の読めない年長さんのS君が、「お兄ちゃん」になったので、一言いわれたらしい。「字の読める○ちゃんが犬なら、S君は犬に負けてるね!」って。あれあれ、ちょっと待って。字が読めることは、たしかに素敵なこと。でも、読めたって、読めなくたって、そこには勝ち負けはないんだよ。と先生は、こども達を集めて丁寧にお話はじめた。「S君のお家ではね、小学校で字を習うのをよーく知ってるの。S君の大きいおにいちゃんも、お姉ちゃんも、みんな小学校から字を覚えたんだって。それに、字が読めたって、読めなくったって、みんなの大好きなS君には変わりないよ。」それで、これから競争社会で揉まれていかなければならない、こども達の心が守られるように、まゆみ先生は、こども達にこうも言ったの。「敬愛幼稚園では、運動会でかけっこの競争をするでしょ。勝ち負けは、敬愛のかけっこだけ!」こども達は、このお話がよくわかった。だって彼らは、弱虫で情けないときにも、毎日のように先生たちから、ぎゅっと抱きしめられてきたから。勝ちっぱなしでは必ず疲れる日がくる。でも、自分自身の中で育つ安心感と自信は、自分を大好きにしてくれるんだね。自分を好きになると、どんどんお友達を好きになれるから、すごい!人間の尊厳を大切にすることは、能力主義とは違うから。でも、幼稚園でも、かけっこに限らず、勝ち負けは、かるた合戦でも発揮してくださいね。ゲームでは、泣いて、悔しがってもいいし、勝って笑っていもいいです。その後、S君はどうなったかって?S君の遠くに住んでいる大学生のお兄ちゃんは、このエピソードを聞いて「うちの親は、呑気すぎて、家では誰も字を教えてやらないんだな。」とあきれ顔。でも、当のS君は、それ以来、ひらがなに興味を覚えて、どんどん読むようになったんだって。車の中からも、薬局の派手な黄色い看板を見つけると、「く・す・り」。って。



S君大丈夫だよ!